新生児の夜泣きやむずかりを鎮める5つのS 

 
「赤ちゃんが夜泣きして困っている。おしめも濡れていないし、ミルクも十分飲んだはずなのに、どうして泣くのか分からないので、自分まで悲しくなる」というお母さんはいらっしゃいませんか?赤ちゃんが泣くと他の家族やお隣の家の人たちに迷惑なので、外に連れて行き、一晩中ヨシヨシとあやしゆらしていた経験をお持ちの方も多いでしょう。
産後すぐの母親には赤ちゃんを守りたいという思いにさせるオキシトシンや、母乳を作るプロラクティンなどのホルモンが脳や体に出ていて、過覚醒状態で眠りが浅いのに、このように夜泣きをされると睡眠不足がつのり疲労度が増します。アメリカでの研究によると、新生児の泣き声が親のストレス度を高め、結果的に交通事故や家庭内暴力が増し、シェーキン・ベービー症候群(激しく揺さぶられることで発生する症状。揺さぶり症候群)などの児童虐待や泣かせっぱなしにする放置問題が起きやすいと言います。困った夜泣きやむずかりをとめる方法はないのでしょうか。
サンフランシスコ大学医学部の小児科医、ハーヴィー・カープ博士(Harvey Karp, M.D.)は『近所で一番ご機嫌の赤ちゃん(The Happiest Baby on the Block)』という本とDVDで、5つのSという方法を指導しています。
カープ博士によると「人間の赤ちゃんは、あらゆる生物の中で、一番無力の状態で生まれてくる。例えば馬は生まれた直後に立ち上がり、少し経つと母馬と一緒に駆けることができる。しかし生物の中で一番進化した人間の脳では、その成長が終わる(20年かかる)まで母親の胎内にいると、頭が(言うまでもなく体も)大きくてなりすぎて難産になってしまう。そのため人間の赤ちゃんはまだ"胎児"の状態で生まれてくるので、出生から生後3ヵ月までを第4胎児期と考えるべきである。新生児は、胎児期に母親の子宮の中でしっかり守られていたのに、その守りが急になくなって、不安になって泣いたりむずかったりするので、赤ちゃんの夜泣きや理由のないむずかりを鎮めるには、母親の胎内にいた環境に戻してあげるとよい」ということです。そして、世界中の新生児のあやし方やなだめ方を研究し編み出されたのが、母親の胎内環境の再現をする5つのSという方法です。

5つのSとは、
swaddling スワドリング(くるみ込み)
side & stomach サイド(おなかを下にした横抱き)
shushing Sh−(母親の血流の波長に似た音)
swing スウィング(ゆらゆら揺らす)
sucking サッキング(しゃぶらせる)
です。
 
SWADDLING スワドリング〜くるみ込み

これは、世界のあらゆるところで行われています。例えばアメリカの先住民インディアンのほとんどの種族では、布でくるんだ赤ちゃんを更に赤ちゃんの形をした板に乗せ、結わえつけます。この方法だと赤ちゃんがとても安心して、気性も安定した子どもに育つと言います。日本でも各地で「おくるみ」や、東北の「いずめこ」などの伝統がありました。カープ博士は、スワドリングが大切な基礎段階であると言います。やりかたは次の手順です。

1 赤ちゃん用の柔らかいブランケットまたは布を用意してください。大風呂敷ぐらいのサイズの正方形で、薄手のものが良いでしょう。
そして、床に布団を敷き、その上にスワドリング用のブランケットまたは布(以下、ブランケットと表記)を広げます。
2 ブランケットをイラストのように◇形に置き、4隅の角の左をA、上をB、右をC、下をDとします。B隅を中央に向けて30センチほど折り、折り目のところに首のあたりがくるように赤ちゃんを置き、頭はブランケットの外に出します。足はD隅のほうに向いています
次にいよいよ包み込みますが、順番は、上から下に向かって包み込むのが1番目、2番目は下から上、3番目が上から下、最後が下から上なので、「ダウン・アップ・ダウン・アップ」と覚えてください。
3 まず最初の「ダウン」ですが、A隅を手にとって赤ちゃんの右腕を体にぴったりつけながら肩上から下に向けて包み込み、左の脇の下から赤ちゃんの体の下にしっかりと入れます。C隅の方向にブランケットをピッと引っ張ってゆるみのないようにします。
4 次の「アップ」では、D隅を下から上に持ち上げて、赤ちゃんの左腕を体の横にまっすぐつけてしっかり包むようにして、肩の下に挟み込みます。足はまがっていても良いそうです。
5 3番目の「ダウン」で、C隅を上から下に少し持って行って、赤ちゃんのあごの下で日本の着物のように3角の襟を作ります。
6 そして最後の「アップ」。赤ちゃんの右胸あたりでC隅の布を左手で押さえ、C・D隅の間の余った布(これがベルトになります)を下から上に赤ちゃんの右肩に向けてもっていき、くるくるっと後ろにまわして前に持ってきて、折り目の間に挟み込んで終わりです。赤ちゃんはしっかり布にくるまれて抱きよくなります。

父親の方が力がありしっかりと赤ちゃんを包みこめるので、スワドリングは父親に適した仕事です。 くるみ込みの段階で、赤ちゃんは経験がないので激しく泣くかもしれません。でも「すぐに気持ち良くしてあげるからね」と声掛けしながら、手早くくるみ込んで下さい。最初はスワドリングだけでは多分泣きやまないでしょうから、次のSに移ります。

 
SIDE & STOMACH サイド〜おなかを下にした横抱き
抱いた形から、フットボール抱きとも言われます。赤ちゃんの右頬を左手で支え、足を左胸の方にむけて、全身を左腕に乗せます。赤ちゃんのおなかを下にして、顔は外側に横抱きする形です。保護者の右手は左手の下で、赤ちゃんの頭を支えます。横抱きの角度によって、赤ちゃんがピタッと泣きやむことが多く、カープ博士はこれを「泣きやむ反射反応」と呼んでいます。これも、腕が長く、手が大きい父親の方が適しているかもしれません。
 
SHUSHING Sh−、シィー〜母親の血流の波長に似た音
横抱きをしても赤ちゃんがまだ泣いていたら、横抱きのまま耳のそばに口を当てて長く音を引っ張りながら「Sh−、シィー」と言い、それを何度も何度も繰り返します。
「Sh−シィー」の音の大きさは、赤ちゃんの声の大きさと同じくらいに合わせます。これで大抵の赤ちゃんは「え?どこかで聞いた音・・・」という顔をして黙ります。この音は胎内で聞いていた母親の血流の音に似ているそうです。赤ちゃんが静かになったら「シィー」も小声にし少しの間繰り返していると、赤ちゃんはいい気持ちで眠ってしまいます。
「Sh−」のかわりに、ヘアードライアーをハイにして熱風を赤ちゃんに吹きかけないように注意しながら音だけを聞かせる、また電気掃除機の音や市販の「血流の音」のCDなどを聞かせても良いでしょう。
胎児期に出来た聴覚の脳神経回路は次第に消え、お母さんの血流の音も忘れていくので、この方法が有効なのは生後3ヵ月の終わりぐらいまでです。(もう少し長く覚えている赤ちゃんもいます)。
 
SWING スウィング〜ゆらゆら揺らす
お母さんの胎内で胎児は羊水の中に浮き、お母さんが歩くたびにゆらゆら揺られていました。ですから赤ちゃんは、揺らされることが大好きです。ロッキングチェア・揺りかごなどは、この原理から発達したのでしょう。
やり方は、第2のS(サイド〜おなかを下にした横抱き)のとおり赤ちゃんの頭と首を両手で支え、体を横抱きに左腕で支えながら、静かに両手を左右に動かします。赤ちゃんの頭がゆらゆらと動きますね。この「スウィング」は、赤ちゃんにとって気持ちがとても良いのです。
<ゆらゆら動かす「スウィング」は、振る「シェーク」ではありません。"シェーキン・ベービー"は、体をつかんで、頭と首を支えずに前後に激しく揺すって脳と首にダメージを与え、時には死に至らしめる児童虐待の一種です。>
保護者が横抱きで疲れたら、椅子に腰かけて、赤ちゃんの頭を両手の上に、そして体をももの上に乗せて、保護者が自分の膝を左右にゆらしても良いのです。むずかったら少し早く、静かになったらゆっくりと揺らします。
赤ちゃんが眠っているなら室内ブランコを使ってもいいでしょう。「ブランコの背を一番平らな状態にし、スワドリング〜くるみ込み」をした赤ちゃんの頭と背中をまっすぐ背にもたらせるように座らせ、必ずシートベルトをしっかりとしめます。最初は手でブランコをゆすり、赤ちゃんが安全に座っていることを確かめてからスイッチを「ハイ」にし、ぎっこぎっこと揺らします。「スイング」は一日中やっていてもよいそうです。
 
SUCKING サッキング〜しゃぶらせる
胎児はいつも指をしゃぶっていました。くるみ込んだスワドリングでは手が自由でないので、その代わりにおしゃぶりをくわえさせると気分が鎮まるようです。注意点は、母乳がしっかり飲めるようになってから、おしゃぶりを与えることです。
またおしゃぶりを時々指でポンポンとたたいて落っこちそうにさせると、赤ちゃんはもっとしっかり食らいつき、吸いつくのが上手になります。
 
赤ちゃんには個人差がありますから、1から5のSの組み合わせを工夫してください。生後4ヶ月を過ぎたら、スワドリングから腕を出してあげて、だんだんと動きの自由を楽しませます。そしてお母さんの子守歌が血流音にとって代わり、ロッキングチェアに乗ってお母さんやお父さんと一緒に揺れるのが好きになれば、胎児期から乳児期に移ったと言えるでしょう。