はぐりぃ らぶりぃ

脳と発達

人間の脳は、大きくは3つに分けられます。それは生まれた時から機能し乳幼児の保護者との関わりで調整されていく「生きるための脳」脳幹(中脳含む)、6歳まで保護者との愛着関係によって発達する「感じる脳」大脳辺縁系、20歳くらいまで発達をする「考える脳」大脳です。これら3つが統合して機能するので、三位一体の脳と言われています。

脳は生存に重要な機能を持つ脳から発達していきます。

1 生きるための脳〜脳幹と間脳(胎児期〜)

胎児の時に一番先に発達するのが脳と脊髄をつなぐ「脳幹」です。上は大脳、下は脊髄に繋がる重さ約200グラムの太い幹状の組織です。脳幹は生物が発達してから爬虫類の時代まで徐々に発達してきた基本的生存を司る場所です。脳幹の機能が停止すると、一巻の終わりということになります。
脳幹の上部には「間脳」があります。文献では、自律神経やホルモン分泌をコントロールしたり、ホルモンの分泌に大切な役割を果たす「視床下部」と、本能的な感覚情報を大脳に伝える「視床」、視床下部と連携しホルモンの分泌を支配する「脳下垂体」あたりを間脳とするようです。

まず視床下部には、自律神経と呼ばれる「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経系統があり、シーソーのようにバランスを取りあって、人間が生存するために必要な機能の調整(呼吸、体温、心拍、血圧、血糖値、食欲、性欲、排泄、睡眠、覚醒など)を自動的に行っています。私たちが恐怖を感じたり、運動をしたりすると交感神経が優先して心拍を早め、血圧と体温を上げ、血糖値を上げて身体の運動を活発にします。そして私たちがリラックスすると副交感神経が優先して心拍を緩め、血圧や体温を下げるなど、自動的に体調を調整してくれるのです。また、視床下部からは赤ちゃんがママに抱かれてうっとりするとセロトニンなどのホルモン(または脳内伝達物質とも言う)が出ますが、これは「愛着」に大いに関係があるホルモンです。これは別ページ(「アタッチメントは良い依存症の一種」)で詳しく説明しましょう。

視床は嗅覚を除く五感から入ってくる情報を集めて大脳に送ったり、危険情報を扁桃体に送って外からの刺激を通すか通さないかを判断する門番役で、「こころの目」とも呼ばれています。扁桃体からの危険信号を受けると、視床下部がCRFというホルモンを分泌して脳下垂体を刺激し、副腎が刺激されて緊張ホルモンと呼ばれるアドレナリンやコーチゾルなどを出し、私たちの脳と身体を「戦う・逃げる」体勢にして、危険に立ち向かわせてくれます。これは、進化の過程でも失われなかった、"本能的に"危険を脱するための実に原始的な生存機能です。

2 感じる脳〜大脳辺縁系

大脳辺縁系は大脳内の内側にあって「扁桃体」や「海馬」などが属し、食欲や性欲などの生存本能、好ききらい、怒り、恐怖などの本能的な情動を司る部分です。

危険の探知機〜大脳辺縁系・扁桃体(出生〜6歳ぐらい)

「扁桃体」は温血動物になってから発達した「ウマの脳」といわれる旧皮質の一部で、危険信号を発する煙探知機のような役割をします。
赤ちゃんは、生まれた時、脳幹・中脳・扁桃体が機能しているので、すぐに呼吸ができ、泣き声をあげ、お乳を飲んで排泄もできます。しかし誰も抱っこしてくれないと、視床が「誰もいないよ!危険だよ!」と危険の探知機である扁桃体に伝え、視床下部・脳下垂体・副腎を次々と刺激して、赤ちゃんの脳と体を緊張ホルモンでいっぱいにします。このようになると、赤ちゃんは、抱こうとしても体をこわばらせ、少しのストレスでも恐怖や不安を高めます。
しっかり抱かれ、ママの肌やお乳の匂いを十分に嗅ぐと、赤ちゃんの扁桃体には安心感が埋め込まれ、不安や恐怖以上に喜びや楽しみ、人を慕うなどの感情が育ちます。
ですから大脳辺縁系は「感じる脳・愛着の脳」と呼ばれ、出生からおよそ6歳まで親や保護者とのやりとりを重ねることで発達していきます。犬や猫も可愛がるとなつきますが、それは、この大脳辺縁系の働きがあるからです。

なお、五感の中で嗅覚だけは、視床を通さずに直接扁桃体につながっています。犬や熊などの温血動物は、匂いを嗅いで安全や危険を察知しますね。人間もこの機能を受け継いでいるので、火事の煙の臭いやガスの臭いにすぐに反応して、「戦う・逃げる」体勢に入り、自分の身を守ることができるのです。そのため扁桃体は、不安や恐怖の元とも言われます。
「戦う」と「逃げる」、この2つの感情はあまり好ましいものではないように思われますが、私たちが生きていくなかで最も大切な原始的感情です。戦国時代の侍が「殺気」を感じてすぐに「戦う・逃げる」体制に入れたのも、この機能のおかげなのです。

記憶する脳〜大脳辺縁系・海馬(3、4歳〜)

扁桃体につながって2本の管状に伸びているのが「海馬」です。外界から取り込まれた情報は一時的に海馬に記憶され、その後必要なものが選別され大脳皮質に送られ記憶として保存されるので、海馬は長期の記憶を作る場所といえるでしょう。
海馬は3、4歳くらいから発達するので、大人に幼児期の記憶をたずねると、概ね3、4歳からの記憶が断片的に思い出されることになります。それ以前の記憶は、物語として、あるいは絵として頭のなかで描けるものではなく、暗いところや狭いところに入るとぞっとするなど、生まれた時から機能している扁桃体と視床で覚えている身体の反応です。また海馬は、体外と体内の現実意識の調整もします。
トラウマ障害で、緊張ホルモンの分泌が止まらなくなると、視床下部から出るCRFというホルモンが海馬の脳細胞を殺し、海馬を収縮させます。そうなると現実感が薄れ、記憶ができない、あるいは記憶がゆがんでしまうようになりますが、海馬の脳神経細胞は、セロトニンで再生することが分かっています。

3 考える脳〜大脳(胎児期〜)

大脳には、人間で一番発達した前頭連合野(大脳の30%を占める前頭葉とその後ろの運動野)、左右の耳の後ろにある側頭連合野(聴覚野)、頭のてっぺんの頭頂連合野(体感感覚野)、後頭連合野(視覚野)の4つの種類があります。

この大脳は「考える脳」と言われ、霊長類で特に発達し、私たち人間で最も発達進歩した脳の部位にあたります。左脳と右脳の2つに分かれたくるみのような形をして、脳のほかの部分をすっぽりとくるんでいます。人間の成人では左脳と右脳の機能はまったく違い、左右の脳半球は交互反応をして、統合した心的体験を作り出します。しかし乳幼児期に癲癇(てんかん=大脳の神経細胞が過剰に活動することによって、発作的な痙攣(けいれん)・意識障害などを反復する状態)などで片方の脳を切り取った場合は、残った脳がある程度切り取った脳の機能を再現することが分かってきました。爬虫類に進化した時代に脳が二つに分かれ、片方が食いちぎられてももう片方の脳で生き続けるようにできるようになったのではとも考えられています。

体内に向かって開かれている、右脳

乳幼児期にまず発達していくのが右脳です。「体内に向って開かれている窓」と言われ、古い脳で作られる恐怖や不安、安心や良い気持ちなどを感じる場所です。左脳に比べて感情的であり攻撃的、かつ悲観的とも言えるので、右脳が優先的となる乳幼児期は感情に流され、攻撃的になります。「乳幼児とのコミュニケーションには言葉だけでなく、豊かな顔の表情や大きな身振りで」と言われるのは、右脳が優先していることと関係しているのでしょう。また右脳は映像や図形、空間を把握する働きがあるので、芸術家の脳とも言われます。また、急なひらめきなどの直感的な思考や潜在意識は右脳のおかげです。右脳が発達していると、いろいろなことを同時に行う "並列処理"を手掛けることができます。

対外に向かって開かれている、左脳

左脳の発達は、3歳ぐらいになってやっと右脳の発達レベルに追いつきます。左脳は「体外に向って開かれている窓」で、対人関係を司る場所です。言葉を聞き分けて理解し、言葉を収め、言葉を作り、話す「言語の機能」はすべて左脳にあります。理論的思考や顕在意識など理性的なはたらきをする脳で、科学者の脳とも言われています。左脳は直列処理で、ひとつのことを初めから終わりまでやり通す場所でもあります。

ちなみに右脳と左脳をつないで、両方から入ってくる情報を連結して脳を結合して使えるようにしてくれる神経の束は、脳梁(のうりょう)と言い大脳辺縁系にあります。脳梁は、乳児期のはいはい(這い這い)などの左右交互運動によって発達し始め、特に思春期で発達します。女性の方が男性に比べて脳梁が多いことから左右の脳の情報交換が盛んで、男性は左右どちらかの脳が優先することが多く芸術家や科学者になりやすいと言われています。

4 動作やバランスに欠かせない脳〜小脳(乳幼児期〜)

生まれた時はとても小さく、乳幼児期に徐々に発達して大脳の4分の1の大きさにまでなるのが、大脳の後ろにある小脳です。赤ちゃんの動作の発達をみると、最初は腕や足が目的のないような動きに見えるものの、次第にモノを的確につかめるようになり、はいはい(這い這い)から伝え歩きなど、小脳の発達に沿って動作が機敏になり、身体のバランスも取れてきます。そのように小脳は運動機能を司る場所なので、ゴルフのスイングなどを何度も繰り返すことで小脳が覚え、やがては考えなくても自然にできるようになります。練習の大切さがよくわかりますね。
出生後からどんどん大きくなる小脳は、幼児期には飛躍的に発達します。幼少期からさまざまな運動に親しむことができれば、運動能力を高めることになるでしょう。⇒関連記事「ぐらんまノート1〜1歳半

 
脳と親子の絆
 

プロローグ〜脳のしくみについて

脳と発達

生きるための脳〜脳幹と間脳(胎児期〜)

感じる脳〜大脳辺縁系

考える脳〜大脳(胎児期〜)

動作やバランスに欠かせない脳〜小脳(乳幼児期〜)

脳と親子の絆

母体と胎児の肉体の絆

新生児期、親と子が互いに結ぶアタッチメント(愛着の絆)

アタッチメントは良い依存症の一種

子育てホルモンを分泌させるには

エピローグ〜ぐらんまの想い